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名古屋地方裁判所 平成3年(行ウ)15号 判決

原告

丹羽哲夫

右訴訟代理人弁護士

榊原匠司

被告

美浜町長

齋藤宏一

右訴訟代理人弁護士

清水幸雄

主文

一  被告が原告に対して平成三年四月八日付でした一般廃棄物処理業の不許可処分を取り消す。

二  被告が原告に対して平成三年四月二六日付でした浄化槽清掃業の不許可処分を取り消す。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  一般廃棄物処理業不許可処分について

1  請求原因

(一) 原告は、愛知県美浜町内において浄化槽汚泥の収集及び運搬の業務を行うため、被告に対し、平成三年三月二八日、一般廃棄物処理業の許可申請をした。

(二) 被告は、原告に対し、同年四月八日、前記(一)の申請につき、「平成三年四月一日に公示をした美浜町廃棄物の処理及び清掃に関する条例第五条に規定する処理計画により現在の許可業者における能力において収集運搬は、困難でないため廃棄物の処理及び清掃に関する法律第七条第二項第一号に規定される「当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難であること。」に適合しないため」という理由で不許可処分(以下「本件収集運搬業不許可処分」という。)をした。

(三) しかし、本件収集運搬業不許可処分は違法であるから、その取消しを求める。

2  請求原因に対する認否

請求原因(一)及び(二)の事実は認め、同(三)は争う。

3  被告の主張

(一) 被告が美浜町廃棄物の処理及び清掃に関する条例(昭和四七年九月二九日条例第二四号)五条に基づき平成三年四月一日に公示した平成三年度一般廃棄物処理計画(以下「本件処理計画」という。)において、し尿及び浄化槽汚泥の各年間排出見込量は、それぞれ四四一〇キロリットルおよび四六六〇キロリットル、合計九〇七〇キロリットルと算定されている。被告は、本件処理計画作成に当たり、住民一人一日当たりの排出量をし尿は1.956リットル、浄化槽汚泥は0.764リットルとして計算しているが、これは、昭和六〇年度から平成元年度までの五年間の収集量の実績値により算出した数値であり、一般廃棄物処理計画について厚生省環境衛生局が指導している同し尿1.4リットル、同浄化槽汚泥0.75リットルをそれぞれ上回る数値である。

そして、右排出見込量のし尿及び浄化槽汚泥を収集運搬するためには、積載量1.8トンのバキューム車二台及び同2.5トンのバキューム車一台並びにこれらの作業に従事する作業員を必要とするところ、美浜町はし尿及び浄化槽汚泥の収集及び運搬につきこれを業者に委託する契約を締結してはいないものの、これまで長年にわたり被告が一般廃棄物処理業及び浄化槽清掃業の許可を与えてきている南知多衛生社こと山下政治(平成三年三月一五日に法人化し、株式会社知多環境保全センターとなった。以下「訴外会社」という。)は、積載量一〇トンのバキューム車一台、同7.2トンのバキューム車一台(ただし、南知多町の営業と兼用)及び1.8トンのバキューム車三台(ただし、一台は予備車)を保有し、これらに必要十分な人員を配備しているのであるから、右収集運搬を行う能力を十二分に有している。また、訴外会社が収集運搬したし尿及び浄化槽汚泥の処分は、美浜町と南知多町が共同で設立した知多南部衛生組合によって完璧に行われている。

したがって、美浜町においては、「当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難であること」という廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)七条二項一号の状況が存在しない。

(二) 廃棄物処理法七条一項に規定する一般廃棄物処理業の許可は自由裁量行為であり、同項一号の要件の認定に当たっても、被告に自由裁量が認められるべきものである。なお、被告は、原告のした一般廃棄物処理業の許可申請の同項二号ないし四号適合性を争ってこれを本件収集運搬業不許可処分の理由とするものではない。

4  被告の主張に対する認否

(一) 被告の主張(一)のうち、本件処理計画において、し尿及び浄化槽汚泥の各年間排出見込量はそれぞれ四四一〇キロリットル及び四六六〇キロリットル、合計九〇七〇キロリットルと算定されていること、被告は、本件処理計画作成に当たり、住民一人一日当たりの排出量をし尿は1.956リットル、浄化槽汚泥は0.764リットルとして計算していること、美浜町はし尿及び浄化槽汚泥の収集及び運搬につきこれを業者に委託する契約を締結していないこと、し尿及び浄化槽汚泥の処分は、美浜町と南知多町が共同で設立した知多南部衛生組合によって行われていることは認め、その余は否認ないし争う。

(二) 被告の主張(二)の前段は争い、後段は認める。

5  原告の主張

(一) 廃棄物処理法七条二項一号の規定には「当該市町村による」と明記されているのであるから、これは当該市町村自らが一般廃棄物の収集、運搬及び処分を行う場合に限られることは文理上明らかであり、一般廃棄物処理業の許可を受けた業者が存在する結果当該市町村における右行為が困難でなくなった場合は含まれない。したがって、美浜町においては、同町によるし尿及び浄化槽汚泥の一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難であるというべきである。

(二) 原告が浄化槽清掃に付随して行う浄化槽汚泥の収集及び運搬を内容とする一般廃棄物処理業の許可は、以下の点を考慮すると、被告の羈束的行政処分と解すべきである。

(1) 昭和五八年法律第四三号による改正前の廃棄物処理法(以下「旧廃棄物処理法」という。)九条は、し尿浄化槽清掃業の許可等について規定していたが、同条五項の準用する同法七条六項、七項及び一〇項から一二項までの規定は現行規定と同じであり、一般廃棄物処理業者に課せられた帳簿記入義務、保存義務等をし尿浄化槽清掃業者にも課しているので、浄化槽清掃業の許可を受けた者は、一般廃棄物処理業の許可を得なくとも、浄化槽清掃業に付随する汚泥等一般廃棄物の収集、運搬及び処分を行うことができたものである。また、昭和四六年一〇月二五日付厚生省環境衛生局環境整備課長の各都道府県・各政令市廃棄物担当部(局)長宛の通知「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の運用に伴う留意事項について」の第六「し尿浄化槽の維持管理等に関すること」、7「その他」の項に、汚泥移送装置の操作によって汚泥を移送する行為はし尿浄化槽の日常の管理作業の一環と考えられ、し尿浄化槽の清掃業の許可を要しないとされている。

(2) 旧廃棄物処理法九条のし尿清掃業に関する処分は、市町村長の羈束的行政処分と解されている。

(3) 原告は、被告から、昭和六〇年度、同六一年度及び同六二年度について、美浜町内における浄化槽清掃業の許可を受けていた。

(三) 仮に、一般廃棄物処理業許可申請に対して被告の行う行政処分が被告の自由裁量に属するとしても、本件収集運搬業不許可処分は、以下の理由により裁量権の濫用であって違法である。

(1) 本件収集運搬業不許可処分の基礎となった本件処理計画は、以下のとおり、合理的根拠を欠く極めてずさんなものである。

イ 本件処理計画は、浄化槽人口を一万六七〇九人(美浜町人口の70.9パーセント)として作成されており、毎年同町を訪れる二〇〇万人以上の観光客の排出するし尿の浄化槽汚泥を全く考慮していない。

ロ 被告が計算根拠とする訴外会社の過去の実績は、美浜町における真実の浄化槽汚泥量を算定したものではなく、訴外会社の収集運搬し得た量を美浜町における浄化槽汚泥の年間総排出量とみなしているにすぎない。

(2) 訴外会社の浄化槽清掃並びに汚泥の収集及び運搬の能力は昭和六一年以降増大しておらず、訴外会社は、同年度以降新たに設置された浄化槽を清掃する能力を有しない。すなわち、美浜町においては近年では毎年約二〇〇基の浄化槽が新設されているが、昭和六一年度から平成元年度までの四年間における訴外会社の実際の清掃基数は一七九六基から一九三二基までの間にあってほとんど横ばい状態で、右実績値が訴外会社の浄化槽清掃能力の限界であり、法定清掃基数と実際清掃基数との差(未清掃浄化槽の数)は毎年増大する一方で、平成三年度には、右数値は二〇〇〇基を超えると推定される。また、浄化槽法、浄化槽法施行規則、浄化槽保守点検業者の登録に関する愛知県条例、厚生省通知等においては、浄化槽の保守点検は浄化槽管理士が自ら行うか、又は浄化槽管理士に実地に監督させて行わなければならないと定められているが、訴外会社には浄化槽管理士は二名しかいない。

(3) 本件収集運搬業不許可処分は、被告が既存業者である訴外会社を保護する意図で原告に対して不公正な差別的取扱いをしたものであり、このことは、以下の事実により明らかである。

イ 原告が昭和六〇年五月に浄化槽汚泥の収集運搬について一般廃棄物処理業の許可申請をしたところ、被告は、何らの法令上の根拠なくほしいままに、「既存業者の同意書」を申請書に添付することを求めた。

ロ 浄化槽法施行規則一一条四項に定める「専門的知識、技術及び相当の経験」については、昭和六〇年九月二七日衛環第一三七号厚生省生活衛生局水道環境部長の各都道府県知事、政令市市長宛通達「浄化槽法の施行について」において、所定の講習会の修了を要する旨定められていたところ、被告は、昭和六一年四月、原告及び訴外会社がそれぞれした浄化槽清掃業とそれに伴う一般廃棄物処理業の許可申請につき処分を行う際、訴外会社に右講習会修了者がなく、原告は右講習会修了者であったにもかかわらず、無資格の訴外会社には許可処分、原告には不許可処分をし、訴外会社の違法営業に手を貸した。

ハ 原告は、昭和六一年四月以降、美浜町情報公開条例に基づき、被告に対し、訴外会社が被告に提出しているし尿浄化槽清掃報告書の公開を求めたが、被告は、清掃件数のみを公開しただけで、被清掃者の氏名、人槽、型式その他の詳細を公開しない。

ニ 訴外会社は、従来山下政治の個人営業であったのが、平成三年度の許可申請に際し初めて法人として申請したものであるから、訴外会社も原告も共に新規参入であるにもかかわらず、訴外会社の組織変更の意味について何らの検討も加えず、訴外会社に許可を与え、原告を不許可とした。

(4) 独占事業者である訴外会社の作業のやり方、料金徴収方法等に対しては、美浜町民の苦情が増大し、絶えることがない。また、美浜町の昭和六〇年一二月定例議会の一般質問において、同町町議会議員中野清孝が被告に対し、現在の一業者独占による弊害等を質問したのに対し、同町厚生部長は、「許可業者を二社以上にすることについては、許可申請者が出てまいりますれば、よく検討して許可する考えです。」と答弁し、処理業者を複数にする必要を認めた。

(5) 許可業者を複数にした場合に弊害はなく、逆に、一業者が独占していることによる弊害が大きい。

(6) 浄化槽新設数が増大する一方、環境保全、衛生のため排水規制が強化される現在の状況下にあって、浄化槽清掃業及び一般廃棄物処理業を一社に独占させ、他に開放しようとしない被告の行政姿勢は時代錯誤というべきである。また、美浜町の近隣の市及び町では、いずれも複数の業者が浄化槽清掃業及び一般廃棄物処理業の許可を受けている。

6  原告の主張に対する認否

(一) 原告の主張(一)のうち、廃棄物処理法七条二項一号の規定に「当該市町村による」と明記されていることは認め、その余は否認ないし争う。

ほとんどの市町村は一般廃棄物の収集及び運搬の業務を自ら行うのではなく、許可業者をもって行わしめているが、原告の主張によると、このような場合には、一般廃棄物処理業の許可申請者が何十人であろうと、許可要件さえ調っていればそのすべてに許可を与えなければならないことになり、その不合理なることは多言を要しない。

(二) 同(二)について、冒頭の主張は争う。(1)のうち、原告主張の法律の規定及び通知の存在は認め、その余は否認ないし争う。(2)は争う。(3)の事実は認める。

(三) 同(三)について、冒頭の主張は争う。(1)のうち、本件処理計画が浄化槽人口を一万六七〇九人(美浜町人口の70.9パーセント)として作成されていることは認め、その余は否認ないし争う。本件処理計画は過去三年間の実績を基礎として平成三年度の見通しを立てて作成されたもので、極めて合理的なものである。また、美浜町を訪れる観光客の実数は年間一〇〇万人を超えることはなく、そのほとんどが日帰り客であり、浄化槽人口の浄化槽汚泥量の中には、観光客等の外来者が排出する汚泥も含まれて計算されている。(2)のうち、美浜町において近年では毎年約二〇〇基の浄化槽が新設されていること、昭和六一年度から平成元年度までの四年間における訴外会社の実際の清掃基数は一七九六基から一九三二基までの間にあること、原告主張の法令等の定めがあることは認め、その余は否認する。原告が主張している浄化槽数は保健所に届け出られた数であり、実際設置利用されている数は右届出数より相当少ない。実際清掃基数が法定清掃基数より少ないのは訴外会社の清掃能力の限界によるのではなく、浄化槽設置者が美浜町の行政指導にもかかわらず、清掃料金節約のために法定期間が過ぎても清掃の申込みをしない結果によるものである。また、訴外会社には、現在四名の登録浄化槽管理士がおり、千数百基の浄化槽の保守点検を十分に遂行することができる。(3)について、冒頭の主張は争い、イのうち、原告が原告主張の申請をしたことは認め、その余は否認する。既存業者の同意書については、美浜町廃棄物の処理及び清掃に関する条例施行規則に規定された一般廃棄物取扱業許可申請書(第一号様式)9「添付書類」の(2)に「その他町長が必要と認める書類」との記載があることに基づいて、添付を求めたものである。ロのうち、被告が昭和六一年に無資格の訴外会社に許可を与え、その違法営業に手を貸したことは否認し、その余は認める。訴外会社においては、山下政治らが昭和六一年五月一六日に所定の講習会修了者となったので、通達違反の期間はごくわずかであったし、結果的に通達に反したからといって訴外会社に対する許可が違法となったり、訴外会社の営業が違法営業となったりするものではない。ハの事実は認める。公開をしなかった書類は、いずれも美浜町情報公開条例で公開を禁止されている書類に該当したので公開しなかったものにすぎない。ニのうち、訴外会社は、従来山下政治の個人営業であったのが、平成三年度の許可申請に際し初めて法人として申請したことは認め、その余の事実は否認する。訴外会社は、個人企業を法人化しただけでその物的、人的陣容に変わりはなく、既存業者とみなされるべきものである。(4)のうち、美浜町厚生部長の答弁の内容は認め、その余は否認する。町民の苦情は現時点では皆無に近いし、苦情の中には申立者の誤解によるものが多い。また、右答弁の趣旨は、複数の業者から許可申請があれば、処理計画上からよく検討するが、既設の許可業者もいるので、二業者以上に許可する必要性、業者間の競争による衝突と混乱、利用者たる町民の利益、不利益等を十分に考慮して許可するかどうかを決めたいというものである。(5)の事実は否認する。(6)のうち、浄化槽清掃業及び一般廃棄物処理業を一社に独占させ、他に開放しようとしない被告の行政姿勢は時代錯誤というべきであることは否認し、その余は認める。美浜町においては、何の弊害もなく、一業者によって浄化槽汚泥の収集及び運搬が処理計画どおりスムーズに行われているのであるから、複数業者に許可を与え競争激化によって町民に無用の混乱と迷惑をかけるよりは、現状を維持することが優れた行政というべきである。また、愛知県知多地方でも、大府市は一業者であり、同様に一業者にのみ許可を与えている市町村は愛知県内に多数存在している。

二  浄化槽清掃業者不許可処分について

1  請求原因

(一) 原告は、愛知県美浜町内において浄化槽清掃業を営むため、被告に対し、平成三年三月二八日、浄化槽清掃業の許可申請をした。

(二) 被告は、原告に対し、同年四月八日、前記(一)の申請につき、昭和六二年五月一三日付環整第七八号厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長通知「浄化槽清掃業の許可について」による「委託契約書の写し」等の書類が添付されていないという理由で決定を保留する旨を通知した上、同年同月二六日、右環境整備課長通知により、原告は浄化槽法三六条二号ホ「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当するという理由で、不許可処分(以下「本件清掃業不許可処分」という。)をした。

(三) しかし、本件清掃業不許可処分は違法であるから、その取消しを求める。

2  請求原因に対する認否

請求原因(一)及び(二)の事実は認め、同(三)は争う。

3  被告の主張

(一) 一般廃棄物処理業の許可を受けていない者が浄化槽法三五条一項に規定する浄化槽清掃業の許可申請をしてきた場合には、許可権者は申請者に対し、浄化槽清掃の結果引き抜かれた汚泥を適正に処理する体制が整備されているか否かを確認するため、同条三項及び浄化槽法施行規則一〇条二項五号に基づき、申請者又は浄化槽管理者が廃棄物処理法七条一項の規定に基づく浄化槽汚泥の収集、運搬又は処分の営業の許可を有する者に浄化槽清掃の結果引き抜かれた汚泥の収集、運搬又は処分を委託する場合には委託契約書の写し、浄化槽管理者が右汚泥を自ら処理する場合にはその旨を確認することができる書類を浄化槽清掃業許可申請書に添付することを求めることができ、それにもかかわらず右書類が添付されなかった場合には、浄化槽法三六条二号ホに該当するとして不許可処分をすることができるというべきである。

(二) 原告は一般廃棄物処理業の許可を受けていない者であり、原告から提出された浄化槽清掃業許可申請書には前記(一)の書類が添付されていなかったので、被告は原告に対し右書類の添付を求めたが、原告はこれを行わなかった。そこで、被告は、本件清掃業不許可処分をしたものである。

4  被告の主張に対する認否

被告の主張のうち、原告が一般廃棄物処理業の許可を受けていない者であり、原告から提出された浄化槽清掃業許可申請書に被告の主張の(一)の書類が添付されていなかったので、被告は原告に対し右書類の添付を求めたが原告がこれを行わなかったことは認め、その余は否認ないし争う。

5  原告の主張

原告は、被告から、昭和六〇年度、同六一年度及び同六二年度の三年間、美浜町内における浄化槽清掃業の許可を受けていた。右期間中、原告は、一般廃棄物処理業の許可を得られなかったため浄化槽汚泥の収集及び運搬を自ら行うことはできなかったが、浄化槽清掃業務に関し不正又は不誠実な行為をした事実はない。

6  原告の主張に対する認否

原告の主張の事実は認める。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一一般廃棄物処理業不許可処分について

一請求原因(一)及び(二)の事実は当事者間に争いがない。

二そこで、原告のした一般廃棄物処理業許可申請に対し、廃棄物処理法七条二項一号に適合していないと被告が認定したことの適否について検討する。

1  地方自治法は、廃棄物処理法及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(以下「廃棄物処理法施行令」という。)の定めるところにより一般廃棄物の処理等について計画を定め、一般廃棄物の収集、運搬及び処分をすることは、市町村が処理しなければならない事務(市町村の固有事務)と定め(地方自治法二条九項、別表第二の二(十一))、また、廃棄物処理法は、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的として(同法一条)、市町村の区域内における一般廃棄物の処理について一定の計画を定め、かつ、右計画に従って一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し、これを運搬し、及び処分することを市町村に義務づけている(同法六条一、二項)。右の一般廃棄物の処理に当たり、市町村は、自ら直接一般廃棄物の収集、運搬及び処分を行うほか、これを市町村以外の第三者に委託する方法により行うことも認められているが、その事務の公共性に鑑み、その場合の基準は政令で定めるとされ(同条三項)、これを受けて廃棄物処理法施行令四条は委託の基準を詳細に定めているのであって、委託の方法により一般廃棄物の収集、運搬及び処分を実施する場合も、その実施の主体はあくまでも市町村であると解するのが相当である。

右のような法令の定めによれば、市町村の住民の日常生活等から排出される一般廃棄物の処理は、原則として、当該市町村がその区域内全域にわたって自ら直接又は委託の方法によって行うことが適当とされているものと解される。

しかし、市町村が自ら直接又は委託の方法によりすべての一般廃棄物の処理を行うことが困難な場合等もあり得るので、廃棄物処理法は、許可及び所要の監督によって市町村の一般廃棄物処理計画との調整を図りつつ、民間業者に一般廃棄物の収集、運搬又は処分をさせることを認めている(同法七条)。すなわち、同法七条の許可制度は、生活環境保全上の支障を生じさせないために、市町村が責任を持って定めた一般廃棄物処理計画との調整を図ることを目的として、一般廃棄物処理業の営業を一般的に禁止し、右計画遂行上必要が認められたり、右計画との適合性が確保される場合に、この禁止を解除するといういわゆる計画許可の制度であると解することができる。

そうであるとすれば、廃棄物処理法七条の規定の趣旨は、市町村が主体となって自ら直接又は委託の方法によって行う一般廃棄物の収集、運搬及び処分と民間業者が主体となって行う一般廃棄物の収集、運搬及び処分との調整を図るところにあるということができるのであるから、民間業者に一般廃棄物の収集、運搬及び処分の営業の許可を与える基準を定める同条二項一号の「市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分」とは、市町村が自ら直接又は委託の方法によって行う一般廃棄物の収集、運搬及び処分を意味し、同号は、右のような一般廃棄物の収集、運搬及び処分が「困難である」場合に限り、本来市町村が主体となって行うべき一般廃棄物の収集、運搬及び処分につき、民間業者を主体として行わせることを許可することができると定めたものであると解するのが相当であり、被告主張のように許可を受けた民間業者による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が「市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分」に含まれると解することは到底できない。

なお、右のように解することは、「市町村による」という規定の文言にも適合するものということができる。

2  これを本件についてみるに、本件処理計画において、し尿及び浄化槽汚泥の各年間排出見込量はそれぞれ四四一〇キロリットル及び四六六〇キロリットル、合計九〇七〇キロリットルと算定されていること、美浜町はし尿及び浄化槽汚泥の収集及び運搬につきこれを業者に委託する契約を締結していないことは当事者間に争いがなく、〈書証番号略〉、証人服部徹山の証言及び弁論の全趣旨によれば、美浜町においては、し尿及び浄化槽汚泥の収集及び運搬はすべて一般廃棄物処理業の許可を受けた訴外会社が一社で行っており、美浜町又はその委託を受けた業者がし尿および浄化槽汚泥の収集及び運搬を行っている事実はないことが認められるのであるから、廃棄物処理法七条二項一号の「当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難であること」という要件を充足していることは明らかである。

3  ところで、被告は、廃棄物処理法七条一項に規定する一般廃棄物処理業の許可は自由裁量行為である旨主張しているところ、右許可は前記1に述べたように、いわゆる計画許可の性質を有するもので、同条二項一、二号の許可要件の審査においては、当該市町村の処理能力、処理計画等に照らしての技術的、政策的判断が必要であること、及び「困難である」(同項一号)、「計画に適合する」(同項二号)等の抽象的で認定に一定の価値判断を伴うような文言が用いられていることから、右要件該当性の認定判断については行政庁に相当広範な裁量が与えられているということができる。

しかしながら、同項一号の「市町村による」という文言の意義については前記1のように解するほかなく、そうであるとすれば、前記2のように、美浜町においては、同町による一般廃棄物の収集及び運搬は全く行われていないことになるのであるから、それでもなお被告において同町による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難でないと認定ないし判断することは、それを正当化する特段の事情がない限り、前記の相当広範な裁量範囲さえも逸脱するもの又は裁量権を濫用するものというほかないところ、本件においては右の特段の事情が存在することについての主張立証はない。

4 したがって、被告が原告の一般廃棄物処理業許可申請につき廃棄物処理法七条二項一号に適合していないと認定したことは、同号の解釈適用を誤ったものであって違法というべきである。

三廃棄物処理法七条二項は、市町村長は、一般廃棄物処理業の許可申請が同項一号ないし四号に適合していると認めるときでなければその許可をしてはならない旨定めている。しかし、被告が本件収集運搬業不許可処分の理由としているのは同項一号に適合しないということのみであるところ、右の理由により不許可とすることが誤っていることは前記二のとおりであり、また、被告が原告のした一般廃棄物処理業の許可申請の同項二号ないし四号適合性を争うものでないことは当事者間に争いがない。

したがって、原告がした一般廃棄物処理業の許可申請は、同項一号ないし四号に適合しているものと認めるのが相当である。

四なお、廃棄物処理法七条の許可については、一般廃棄物処理業の許可申請が同条二項一号ないし四号に適合していると認められるにもかかわらず許可をしないといういわゆる効果裁量は認められないと解するのが相当である。すなわち、右各号は許可要件を詳細に規定しているものであるが、その沿革をみると、昭和四〇年法律第一一九号による改正前の清掃法においては、同法一五条の許可について全く許可要件が定められていなかったのが、右改正により、その一五条の二において、「当該市町村による汚物の収集及び処分が困難であり、かつ、環境衛生上の支障が生ずるおそれがないと認められるとき」という許可要件が定められ、更に、昭和四五年に制定された廃棄物処理法七条二項においては、「計画に適合するものであり、当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難であり、かつ、環境衛生上の支障が生ずるおそれがないと認められるとき」と定められ、昭和五一年法律第六八号による改正により、現行の廃棄物処理法七条二項のように許可要件が整備されたものであり、このような制定及び改正の経緯に照らせば、同法は、清掃法に許可要件の定めがなかった当時にいわゆる効果裁量の内容としていた基準を、廃棄物処理法七条二項各号の許可要件の中に取り込み、その各要件の認定に広範な裁量を認めるという形を採ることとしたものと解されるのであって、そのような現行法のもとにおいては、一般廃棄物処理業の許可申請が七条二項各号に適合すると認められた場合には、それでも許可を与えないことができるという効果裁量は認められないと解するのが相当である。

五以上のとおりであるから、本件収集運搬業不許可処分は、違法な処分として取り消されるべきものである。

第二清掃業不許可処分について

一請求原因(一)及び(二)の事実、並びに原告が一般廃棄物処理業の許可を受けていない者であり、原告から提出された浄化槽清掃業許可申請書に被告の主張の(一)の書類が添付されていなかったので、被告は原告に対し右書類の添付を求めたが、原告がこれを行わなかったことは、いずれも当事者間に争いがない。

二前記一の事実及び第一の一記載の事実に、〈書証番号略〉、証人服部徹山(第二回)の証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  原告は、愛知県美浜町内において浄化槽清掃の営業をするため、被告に対し、平成三年三月二八日、浄化槽清掃業の許可申請をするとともに、浄化槽清掃によって引き抜かれる浄化槽汚泥等の収集及び運搬を行うために、被告に対し、同日、併せて一般廃棄物処理業の許可申請をした。

2  被告は、原告に対し、同年四月八日、前記1の一般廃棄物処理業の許可申請につき不許可処分をし、この結果原告が浄化槽清掃によって引き抜かれた汚泥の収集及び運搬を自ら行えないことが明らかになったことから、同日、原告に対し、前記1の浄化槽清掃業の許可申請につき、浄化槽汚泥の収集及び運搬の営業の許可を受けている者すなわち訴外会社に浄化槽清掃の結果引き抜かれた汚泥の収集及び運搬を委託する旨の契約書の写し等の添付を求めて、決定を保留した。その後、原告が右書類の添付をしなかったことから、被告は、原告が浄化槽清掃の結果引き抜かれた汚泥について自ら収集及び運搬を行うことができない者であることが明らかであり、かつ、右の収集及び運搬をこれを行うことができる者に委託していることも認められないため、結局、原告は浄化槽清掃の結果引き抜かれた汚泥の収集及び運搬を適正に行うことができない者であり、浄化槽清掃業の業務に関し、「不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当するとして、本件清掃業不許可処分をした。

三確かに、浄化槽の清掃は省令で定める技術上の基準に従って行われなければならず(浄化槽法九条、四条六項)、その基準として「引き出し後の汚泥、スカム等が適正に処理されるよう必要な措置を講じること」と定められている(浄化槽法施行規則三条一一号)のであるから、浄化槽清掃業者は、引き出した汚泥等の処理のため必要な措置を講じることもその付随的業務とされている。

しかしながら、前述のとおり、本件収集運搬業不許可処分は取り消されるべきものであり、被告は、本判決の趣旨に従い、改めて原告の一般廃棄物処理業の許可申請に対する処分をしなければならない(行政事件訴訟法三三条二項)ところ、被告は、本件収集運搬業不許可処分の理由とした廃棄物処理法七条二項一号適合性以外の要件、すなわち同項二号ないし四号適合性については争っていないのであるから、右許可申請については、他に特段の事情がない限り、許可されることが見込まれるところである。

また、原告が、被告から昭和六〇年度、同六一年度及び同六二年度の三年間、美浜町内における浄化槽清掃業の許可を受けていたこと、右期間中、原告は、一般廃棄物処理業の許可を得ることができなかったため浄化槽汚泥の収集及び運搬を自ら行うことはできなかったが、浄化槽清掃業務に関し不正又は不誠実な行為をした事実がないことは、当事者間に争いがなく、右事実と原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、浄化槽清掃業の許可を受けても、一般廃棄物処理業の許可を受けていない間は、浄化槽清掃の営業をすることを自粛する意思であり、したがって、浄化槽清掃の結果引き抜かれる汚泥の放置、不法投棄等の事態が生じるおそれはないこと、そのほかに原告が浄化槽清掃業の業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあることをうかがわせる事情は存しないことを認めることができる。

四ところで、浄化槽清掃の業務は、一般廃棄物処理の業務と異なり、市町村がその責務として自ら行うべきものであるとは定められておらず、浄化槽法三五条の許可の制度は、生活環境の保全上支障が生じないようにすることを目的として、浄化槽清掃業の営業を一般的に禁止し、一定の技術基準に適合し、かつ、欠格事由に該当しない者に対してこの禁止を解除するといういわゆる警察許可の制度であると解することができる。したがって、浄化槽清掃業の許可は、要件の認定に裁量は認められず、かつ、いわゆる効果裁量もなく、所定の基準を満たした者に対してはすべて許可が与えられるべきものと解するのが相当である。

五そうであるとすれば、本件清掃業不許可処分も、違法な処分として、取り消されるべきものである。

第三結論

よって、本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官瀬戸正義 裁判官杉原則彦 裁判官後藤博)

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